《キャラ活》=キャラクターの二次創作活動(ジュマリ・アラム 哲学コース)

本学部、哲学コースで宗教学の分野を担当しているジュマリ・アラム(Djumali ALAM)と申します。私はインドネシア国籍の者ですが、東京生まれで、これまでの人生の3分の2の期間を日本で過ごしてきました。山口大学には、2002年の秋に着任しました。

このたびは、本学部のWEBサイトに「人文散歩:なぜ学ぶ・何を学ぶ・どう学ぶ」という新たなコラムが設けられましたが、自身の、いまだ試行錯誤で進めている宗教学探究のいくつかの関心事から、最近もっとも意欲的に手掛けている「キャラクターの二次創作活動」の研究について、簡単に紹介したいと思います。

この研究は、現代日本サブカルチャーにおける「キャラクターの二次創作活動」(以降より「キャラ活」と称する)に焦点を当て、同活動の実体とプロセスを、特有の精神的メカニズムを有するものとして体系化し、その上で、同活動が従事者に対してもたらしている精神性・精神的作用(スピリチュアリティ)を描き出そうと試みるものであります。

キャラ活とは、現代日本サブカルチャーにおける主要な活動パターンの一つであり、個々人が、主に業界の発信する創作媒体(漫画、アニメ、映画、演劇、オンラインゲーム、コンピュータゲーム、ライトノベル、小説などの原作)の登場人物から、キャラクターの基本型・雛形を抽出し、原作とは必ずしも一致しない――あるいは原作には存在しない――キャラクター的・ストーリー的な独自のコンテンツと展開を付与し、現代日本サブカルチャーの中で普及している別の媒体(同人誌、動画投稿サイト、展示会、即売会、イベント、唱歌ライブ・ダンス・ミュージカルをはじめとする舞台パフォーマンスなどのサブカルチャーの催しの場)に公開したり表現したりする活動のことです。

この研究では、キャラ活が「カリスマ」と「偶像」(相反する二つの宗教的力関係として)を志向する行為と動機によって成り立っているものと仮定します。すなわちキャラ活は、同活動に携わる現代日本の多くの若者にとって、超人間的エージェント・擬人的世界との関係を経験するためのすスピリチュアリティ的な媒体・回路の機能を有しているものと見ているのです。

キャラ活は、原作の登場人物のキャラクターそのものではなく、キャラクターのテンプレートを主たる原材料(ねた)とするものであり、「キャラクター・テンプレートの抽出」からはじまって、それを実体化する一連の過程(「キャラクターの実体化」)に向けられるものとなっているようです。具体的には次のような活動が挙げられます。

  1. 同人誌】同人誌に自作の文やイラストを掲載し、また展示会・即売会・イベント等に出品すること。
  2. キャラクター・グッズ】キャラクター・グッズを自作し、また展示会・即売会・イベント等に出品すること。
  3. コスプレ】コスプレのイベントに、コスプレイヤーとして参加すること。
  4. ボーカロイド・動画】パソコン上でボーカロイドや動画作成ソフトを使って音声・動画ファイルを作成し、動画投稿サイトに投稿すること。
  5. オーディエンス】前記①~④および舞台パフォーマンス等の場・媒体に、創作者・出品者・出演者・投稿者等(生産者/発信者/アクター)としてではなく、読者・鑑賞者・視聴者・閲覧者等(消費者/受信者/オーディエンス)として臨むこと。こうした活動がキャラ活になりうるのは、アクターとオーディエンスを隔てる境界線が薄い(または相互に入れ替わる)というキャラ活の特徴的な仕組みによるものである。
  6. アイドルファン】特定のアイドル・アーチスト・役者のファンになり、映画・舞台・ライブ・コンサート・イベント等を鑑賞すること(またはこうした催しに参加すること)。こうした活動がキャラ活になりうるのは、アイドルとファンが対等な位置と立場に置かれる(ときにはファンがアイドルを育てる)というキャラ活の特徴的な仕組みと相まって、両者が一緒になってアイドルを前もって「キャラクター化」するからである。
  7. 収集と使用】キャラクター・グッズや特定のキャラクターをテーマとした作品・品々を積極的に収集したり好んで使用したりすること。こうした活動がキャラ活になりうるのは、この場合の「収集」と「使用」は、キャラ活における場・媒体として機能するからである。

(1)から(4)のような活動は、個々の行為者が主体的・積極的に創作を行うため、部外者から見ても、比較的わかりやすいキャラ活であります。しかし(5)から(7)のような、一見して創作活動を行っているようには見えない活動も、キャラ活に含むものと見ることができます。

この研究の目的は、上記①~⑦のキャラ活の場・媒体の実地調査(フィールドワーク)を通して、次のことを明らかにすることです。

  1. 従事者の経験的世界から見る活動工程の図式
  2. キャラクター・テンプレートの抽出方法
  3. キャラクターの実体化の方法
  4. 「キャラクター・テンプレートの抽出」と「キャラクターの実体化」に際し、いかなるスピリチュアリティが従事者に働くのか。またこのスピリチュアリティは、宗教の古典的事象においてもよく知られる「カリスマ」と「偶像」の枠組みから見ると、いかなるものなのか。

キャラクターは、生身の生命体ではないということから、元来、「偶像」的な存在であるはずです。しかしこの研究が注目するキャラ活は、「カリスマ」性が伴うことを十分に示唆しており、キャラクター・テンプレートが実体化する過程の中で、カリスマに関する従来の研究や理論ではあまり取りあげられなかった、擬人化に特有なメカニズムとしてのスピリチュアリティが働くものと仮定します。

この研究は、現代日本サブカルチャーにおける若者主体の活動をスピリチュアリティの視点からとりあげる宗教学的研究です。宗教学は昨今、宗教の本質の説明を、既成の宗教体系・思想体系・宗教組織等の“古典的事象”の探究を通して行う方法から、徐々に重点がシフトまたは拡張し、“現代的事象”の中に潜む宗教性・宗教的機能、宗教的経験、コーピング・癒し・治癒等(概して「スピリチュアリティ」と呼べる)に注目するようになったと言えます。

しかしその対象範囲は、新宗教・ニューエイジと医療現場にまで及んでいるものの、サブカルチャーとキャラ活の世界には、まださほど深く至っていないのが現状です。

一方、宗教学または学術研究以外の領域では、サブカルチャー理論(オタク文化論など)が90年代以降の日本に定着しており、また文学と演劇論の文脈の中では古くからキャラクターが重要な分析対象として扱われています。これらの研究は、社会事象としてのキャラクター、原作のキャラクターの有り方、パフォーマンスとしてのキャラクター等に焦点を当てるものであり、スピリチュアリティの次元に置き換えて説明するものではないようです。

キャラ活は、現代日本社会におけるメジャーな若者文化でありますが、その反面、ネガティブなイメージも定着しているようです。この研究の特色の一つは、キャラ活に対する良し悪しの判断や評価を下さず、「キャラクター」の事象をキャラ活の文脈の中に置き、カリスマ性と偶像性という宗教の基本的な枠組み(超人間的エージェントや擬人的世界との関係)を通して、そのスピリチュアリティ的な実体を真正面から捉えなおすところにあります。すなわち従事者の心や経験的な次元から、その原理やメカニズムを垣間見、若者を取り巻く宗教性の一面を解き明かしながら記述してゆこうとする試みです。