2013/02/26
日本語学・日本文学コース担当 平野芳信教授の著書が刊行されました。
<書籍データ>
*単行本(新書): 206ページ
*出版社:光文社(2013/2)
*言語 日本語
*ISBN: 9784334037321
<著者からひとこと>
本書は、同じ光文社新書の一冊、宮下規久朗氏の手による『食べる西洋美術史 「最後の晩餐」から読む』の、いわば姉妹編として企画されたものです。
私の専門分野である日本近代文学史を〈食〉を通して、文化記号的、身体論的に論じたものです。具体的には夏目漱石・志賀直哉・森鷗外・向田邦子・南木佳士・村上春樹といった作家が、その作品のなかで描いた〈食〉の諸相を、《文学》・《性》・《女》・《家族》・《文化》・《病気》・《現代》という七つの側面から分析しました。
私自身としては、20世紀末の感性の地殻変動を、〈料理小説〉として系譜づけることで俯瞰したつもりですが、それが成功しているのかどうかは、読まれた方にお任せするしかありません。
ここでこんなことを記すことは相応しくないかもしれませんが、正直にいえば、今の私にとって重要なことは、書かれた内容の成否ではなくなっています。なぜなら、本書を執筆することで、おそらくは私自身が一番変化した(あるいは変化することを強いられた)からです。
その変貌の内実を一言で説明することは難しいのですが、誤解を恐れずにいうと私はこれまで、どこか安全地帯に身を置いていわゆる「研究論文」や「研究書」を書いてきました。
しかし、今回は好むと好まざるとに拘わらず、表現することで自分自身が晒されてしまったという感覚を味わってしまったのです。
それがどれだけ読者に伝わってしまうことになるのか? なろうことなら、伝わらずに、表向き私自身が一番楽しんで書いたように読まれたい、そんなアンビバレントな感情にとらわれています。