教員著書刊行情報

歴史学コース担当 南雲泰輔講師が翻訳した図書が刊行されました。

ブライアン・ウォード=パーキンズ著/南雲泰輔訳
ローマ帝国の崩壊: 文明が終わるということ 2014年6月

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ジャケットデザインにダイナミズムを感じるので見開きで掲載します。(↑)
帯付きだとこんな感じです。(↓)
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<書籍データ>
* 単行本: 350ページ
* 出版社: 白水社 (2014/6/20)
* 言語: 日本語
* ISBN: 9784560083543

<訳者からひとこと>
 このたび白水社より刊行された,ブライアン・ウォード=パーキンズ著『ローマ帝国の崩壊:文明が終わるということ』は,タイトルの示す通り,ローマ帝国の崩壊をひとつの文明の終焉とみて,歴史学・考古学の双方にわたって多様な史資料を活用しつつ叙述したものです。明快な筆致で,図版もたくさん含まれており,一般読者の方々にも面白く読んでいただける内容の書物であると思いますが,本書の特色は,私見では何よりも著者のスタンスが明示された「反論の書」だという点にあります。
 この「反論」が執筆されるに至った経緯をごく簡単に述べますと,1970年代以降,英米の歴史学界では,ピーター・ブラウンとウォルター・ゴッファートという二人の優れた研究者をそれぞれ主唱者として,ローマ衰亡とゲルマン民族の侵入について重要な見直しが提起されました。その結果,衰亡ではなく「変容」へ,侵入ではなく「順応」へと,学界の潮流が大きく変化したのです。これらの新学説は,20世紀後半の支配的思潮とも結び付いて広く江湖の喝采を博しましたが,21世紀に入ると,それらが主張する楽観的な時代理解に対して厳しい批判が生じてきます。そのなかの一冊として,新学説に正面からの反論を企てたのが本書であり,これ以後,学界での議論は新たな段階へ移行することになりました。つまり本書は,ローマ帝国の衰亡をめぐる近年の学界動向のなかで,重要な役割を果たした書物と評価できると考えられます。
 ローマ帝国の衰亡は,歴史上のさまざまな国家や文明の「崩壊」のなかでもとりわけ多くの人々の興味を引くもののようで,これまでに実にさまざまな学説が提示されてきました。しかし,ローマ衰亡にかんする学説展開の歴史のなかで,上に簡単に触れた1970年代以降の動向は,それ自体が検討に値するほどの,独特で興味深い経過を示しているように思われます。なぜ20世紀後半にローマ衰亡を「変容」と,ゲルマン侵入を「順応」と読み替える研究者が出現したのか。なぜ21世紀に入ってそれに対する反論がなされたのか。本書を繙くことで,ローマ帝国の衰亡にまつわる諸問題はもとより,それらを扱う歴史学や考古学の研究者たちの営み,さらにはその背後にある現代という時代の変化についても考えていただければと思っております。

<Amazonでの本書の紹介文>
ローマ帝国末期にゲルマン民族が侵入してきたとき、ローマ社会や経済に何が起き、人々の暮らしはどう変化したのか。史学・考古学双方の研究を駆使して描く、激動の時代の実態。

ギボン『ローマ帝国衰亡史』以来長らく、ローマ帝国は衰亡し崩壊したというのが常識だった。ところが一九七〇年代以降、研究者のあいだでは、それまで主流だった政治・経済面を中心とした研究に対し、宗教や社会に着眼することで、「衰亡」とみなされてきた時代を独自の価値を持つ「古代末期」という新しいポジティヴな時代と捉え直す動きが起こった。さらに九〇年代になると、考古学的史料を用いて、ローマ帝国はやはりある時点で「崩壊」したのだという事実をつきつける研究者があらわれた。
著者ウォード=パーキンズもそのひとりであり、本書では、何がどう問題なのかというレベルからわかりやすく解説しつつ、「ゲルマン民族が侵入してきたとき、経済や社会に何が起き、人びとの暮らしはどう変化したのか」を、文献史料や陶器・家畜の骨・建築物(の跡)などを使い、史学・考古学双方の研究を駆使して描き出している。ローマ帝国の洗練された生産・流通システムがひとたび崩壊してしまうと、地域によっては先史時代の水準にまで後退し、回復には数世紀を要したという事実は、かなり衝撃的である。
英国ペンクラブのヘッセル=ティルトマン歴史賞受賞。

▼原題 THE FALL OF ROME: AND THE END OF CIVILIZATION