井町菜月さん(人文科学研究科修士課程2年)が「第16回全国読書マラソン・コメント大賞」でアカデミック賞を受賞しました

大学院人文科学研究科修士課程2年の井町菜月さんが、全国大学生協連主催の「第16回全国読書マラソン・コメント大賞」(←リンクになっています)でアカデミック賞を受賞しました。

井町さんおめでとうございます。

この「全国読書マラソン・コメント大賞」の基盤になっている「読書マラソン」というのは、大学生が、自分で選んで読んだ本を紹介するコメントを書き、他の学生に本の内容と魅力を知ってもらうためのものです。大学生協で、本にコメントが付けられているのを見たことがある人もいるかもしれません。あれが「読書マラソン」のコメントです。

実は井町さんは、学部1年生のころからこの「読書マラソン」に参加されていて、昨年度も銀賞を受賞されています。井町さんから受賞のメッセージをいただきましたので、以下に掲載します。

今回賞をいただいたコメントは、オルテガ・イ・ガセット『大衆の反逆』を題材に書いたものです。私が、大衆消費社会に警鐘を鳴らしたこの名著に出会ったのは、東洋思想史研究室の仲間との読書会です。私が参加していた読書会は、本を題材に議論する会で、人文学部の講読や演習の授業を学生だけで行うイメージです。議論する、といっても授業ほど堅苦しいものではなく、分からないところや気に入った箇所を参加者と共有したり、本から連想した事柄を思い思いに話したりする程度です。研究室に集まって、意見を交わしながら本と向き合う時間は、和やかで、少し知的な、心地の良い時間でした。しかしコロナ禍の中、読書会は音声通話での開催に変更となりました。こうした自身の経験と、『大衆の反逆』の中で描写される世界の現状に、近いものを感じ、それを表現したのが今回のコメントです。
実は、昨年の「第15回コメント大賞」で銀賞をいただいた、三島由紀夫『金閣寺』も別の読書会で扱った本です。さらに言えば、私が学部1年生の時から「読書マラソン」に参加し続けることができたのは、「読書」を通じて出会った方々から沢山の刺激を受けたからです。このように思いを巡らせてみると、大学に入ってからの私の読書生活は、いつも周囲に仲間のいるものでした。そして、それはこれからも変わらないのだろうな、と思います(つい先日、研究室の皆と「社会人になっても、読書会を続けよう」と話しました)。
「コメントを書く時間があるなら、その間にもう一冊本が読める」、学部生の頃にそう言われたことがあります。確かにその通りかもしれません。しかし、コメントを書くことも無意味ではないはず。コメントを書く時間は、本と自分自身の接点を探し、それを表現する時間です。本の著者や登場人物の言葉を通じて、自分の考え方や価値観、生き方を振り返る時間です。自分の気持ちにピッタリ合う言葉を探し、表現できるとワクワクします。「ぜひ皆さん、読書マラソンに参加してください!」なんて言いません。でも、読書を一人の時間として完結させるのではなく、それをアウトプットする時間をたまにはとってみてください。コメントでなくてもいい。気に入った言葉をメモするとか、その言葉を友人に伝えてみる…とか。読書会を企画して、本を題材におしゃべりするのもオススメです。同じ専攻の人たちと集まれば深い話ができるし、先生や他学部の人を交えれば、普段聞けない話が聞けます。大学在学中、私はこうした「読書」を経験してきました。本の著者や登場人物、そして周囲の「本好き」との出会い。「読書」のおかげで、私の学生生活は格段に充実したものとなりました。

井町菜月

また、井町さんがアカデミック賞を受賞したコメントも送ってもらいましたので、以下に掲載します。オルテガ・イ・ガセットの『大衆の反逆』を読んでのコメントです。

私がこの本を読み始めたのは2020年2月。まだ“ソーシャルディスタンス”なんて言われてなくて、研究室で皆と意見を交わしながらページをめくることができていた。4月、そんな当たり前の日々がかけがえのない時間だったことに気づく。閉塞した毎日を送る私にオルテガは語りかける。先の見えない現状に思考停止に陥ってしまってはだめだ、周囲に流されてはだめだ、自分で想像し、創造しろ、と。約100年前に紡ぎだされた彼の言葉に背中を押され、私は奮い立つことができた。